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仙台高等裁判所 昭和28年(う)861号 判決 1954年2月16日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

副主任弁護人勅使河原直三郎の陳述した控訴趣意は、記録に編綴の同弁護人名義及び同弁護人と弁護人富岡秀夫両人名義の各控訴趣意書の記載と同じであるから、これを引用する。

勅使河原弁護人の控訴趣意第一について。

原判決が原判示第一事実の証拠として原審証人鈴木金三郎の証言を援用しており、原審証人鈴木金三郎なる者は記録中存しないこと所論のとおりであるが、記録に徴するに右は原審証人佐藤金三郎の誤記であると認めるのが相当である。されば、原審は粗漏の譏を免れないけれども、未だ以て所論のように虚無の証拠を採用したものとはなし難い。論旨は理由がない。富岡、勅使河原両弁護人の控訴趣意第一点について。

しかし、原判示第一の各事実特に所論本件金員授受の趣旨が包括的に投票取纒めの資金及び報酬としてその処分を一任されたものである事実及び被告人においてその情を知つていた事実は、原判決挙示の証拠により優にこれを肯認し得るのであつて、所論のように本件金員が公職選挙法で認められている実費弁償であつたとの事実及び被告人において本件金員を法定選挙費用中から支給せられた合法的なものと信じていたとの事実はこれを認めるに由なく、記録を精査しても原判決の右事実認定に過誤あることを疑うべき事由は存しない。所論被告人の検察官に対する第一回乃至第三回供述調書中本件金員授受の趣旨が御苦労分乃至心づけの意味であると述べているのは報酬の趣旨であることがその供述の全趣旨から窺えるのであつて、なおその供述が所論のように検察官の反問によつて納得させられた供述であるとは認められない。また、本件金員中五万円を被告人が使わずに所持していたからとて、それを以て直ちに、所論のように、本件金員が実費弁償の趣旨のものであるとはいえない。所論は独自の見解で採用できない。論旨は理由がない。

勅使河原弁護人の控訴趣意第二及び富岡、勅使河原両弁護人の控訴趣意第二点について。

所論に考え、記録を精査し、被告人の経歴、本件犯行の動機、態様、金額、回数その他諸般の情状を斟酌考量するに、原判決が被告人を懲役八月但し二年間執行猶予に処し、公民権を停止しない旨の宣言をしなかつたのを目して、量刑重きに失し不当であるとは認められない。論旨は理由がない。

次に、職権を以て調査するに、被告人が供与を受けた分け前中没収になつた金五万円と原判示第二の供与をした金三万六千円とを控除した残額は没収できないから、その価額を追徴すべきであるのに、原判決はその追徴を遺脱した違法をおかしている。しかし、本件は被告人のみの控訴に係るから、右の違法を以て原判決破棄の理由とはしないこととする。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。(昭和二九年二月一六日仙台高等裁判所第二刑事部)

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